判決文の解説

ここでは肖像権の侵害が争われた裁判例をいくつか紹介します。

なお、「裁判所の判断」は、判決文の重要な点を抜き出し、わかりやすい表現に直したもので、原文そのままではありません。

街で人を無断撮影しウェブサイトに掲載した事例

東京地裁 平成16年(ワ)第18202号
(「街の人」肖像権侵害事件)

原告(被害者)女性が街中を歩いていたところ、とある会社(被告、加害者)所属の社員に無断で写真を撮影され、その写真を無断で被告が運営するウェブサイト上に掲載された事例です。

この事例では女性が着ていた服に大きく「SEX」という文字が書かれていた点、その写真がとあるネット掲示板上で誹謗中傷の的となっていた点が考慮され、肖像権侵害と判断されました。
また、被告側はいわゆるプライバシー権の侵害の基準を元にして肖像権侵害にはならないと主張しましたが、認められなかった事例でもあります。
(自分でその服を選び街を歩いている、つまり自らプライバシーを公開していても、無断撮影および公開は違法であると判断された)

ちなみに賠償金の額は35万円(弁護士費用5万円含む)でした。

概要

  • 女性(原告)は街を歩いている所を、被告に無断で撮影された。
    なお、女性は撮影されたことに気づかなかった。
  • その写真を被告が運営するウェブサイトに無断で掲載した。
    その目的は「ファッションの向上を図るため、ファッションの源となるデザインに関する知識及び思想の総合的な普及啓発を推進し、もって国民の生活文化の向上発展に寄与する」ため。(被告主張より)
  • その後、掲示板サイトで女性の姿が誹謗中傷の的となった。
    主な理由は女性の服のデザイン。

裁判所の判断

女性の着用していた服には大きく「SEX」の文字がデザインされており、一般人であれば写真を撮影されることによって心理的な負担を覚え、このような写真を撮影されたりウェブサイトに掲載されたりすることを望まない。

被告は、女性が公共の場を歩いている場面を撮影したに過ぎず、撮影自体も女性に心理的負担を与えていないので、肖像権を侵害しないと主張する。
しかし、女性が公道上を歩いているとしても、その周囲の人に一時的に見られるに過ぎないが、写真を撮影しウェブサイト上に掲載すれば多くの人に知られることになる。
また、この写真の撮影は、たまたま写り込んだような場合ではなく原告女性を狙った撮影であり、女性に強い心理的負担を与えている。

これらの理由から、被告の行為は原告の肖像権を侵害する。

撮影の違法性(表現の自由とのバランス)について

被告の行為の目的自体は正当なもので、公共性がある。
(被告の目的は上記参照)

しかし、原告女性の承諾を得た上で写真を撮影することは十分可能であったにもかかわらず、それをしなかったことは正当とは言えない。
また、個人が特定されない形で写真を撮影、掲載しても上記の目的は十分達成できたはずである。

これらの理由から、違法性は阻却されない。

出会い系サイトに写真を無断使用された事例

東京地裁 平成16年(ワ)第19075号

原告女性(被害者)側からの依頼によって撮影された写真を、原告の承諾を得ないまま出会い系サイトの広告として使用された事例です。

この事件では被告(加害者)は2名存在します。

  • 被告カメラマン
    原告からの依頼によって写真を撮影した人物。
    原告の承諾を得ずに被告会社に写真を提供した
  • 被告会社
    被告カメラマンから出会い系サイトの宣伝用として写真を提供された会社。

この事例では、写真の撮影自体には承諾があったものの、その写真を同意の範囲外で使用したことについて肖像権侵害が認められました。

ちなみに賠償額は120万円(弁護士費用20万円含む)でした。
額がやや大きいですが、これはその写真がアダルト雑誌に広告として掲載されたことに対する精神的苦痛が考慮されています。

概要

  • 被告カメラマンは、原告(の姉)からの依頼によって原告を写真撮影した。
  • 被告カメラマンは、この写真を出会い系サイトの広告用写真として被告会社に持ち込んだ。
    なお、原告からはこのことについての承諾を得ていなかった。
  • 被告会社は、写真を出会い系サイトの広告として使用した。

裁判所の判断

写真の撮影者(被告カメラマン)がプロのカメラマンであることや、撮影者本人から写真を提供されたとしても、その事実だけで写真に写っている人物の承諾があったものとは認められない。
被告会社には、原告女性に写真の使用の承諾を確認する義務があり、確認を怠ったのは義務違反である。
(著作権と肖像権とは別問題)
なお、被告会社は被告カメラマンから写真の使用について原告から承諾があると説明を受けたと主張するが、それを認める証拠はない。

被告カメラマンは、原告女性からは出会い系サイトに写真を使用する承諾を得ておらず、写真を受け取ったのは単なる記念の趣旨であった。
この写真を被告会社に提供したことは原告の肖像権を侵害する。
なお、いったん写真を提供した後に返却を申し出、写真を返却されているが、このことをもって肖像権侵害を否定することはできない。