肖像権とプライバシー権

共通点もあるが別の権利

肖像権とプライバシー権はやや似た概念で、共通する部分もあるので合わせて説明しておきます。

「プライバシー」は日本語では私事と訳されます。
簡単に言えば、個人の私生活上の事柄の事で、特に普通は周りに公開しないような情報を意味します。
個人的なことはやたらめったらに公表されてしまうと平穏な生活が送れなくなるので保護しよう、というのがプライバシー権です。

プライバシー権の根拠は肖像権と同じ、憲法13条の「幸福追求権」です。
プライバシー権も肖像権も、人が生まれながらに持っている権利(基本的人権)と考えられています。

そして、プライバシーの侵害とは、

  • 私事に関する情報のうち、
  • まだ公表されていない情報で、
  • (一般人の感覚で)公表されることを望まないであろう情報を、
  • みだりに公表し、本人に心理的負担、不安感を与えること

を言います。
「私事に関する情報」は、それが事実でなくても事実のように受け止められるおそれがあれば該当します。

プライバシー侵害と表現の自由

肖像権の解説のときにも登場しましたが、時にプライバシー権は表現の自由や報道の自由などとも衝突することがあります。
人にはいくらプライバシー権があるといっても、無制限に認められるものではありません。

例えば、○○さんは不倫をしている、というような情報を公開することはプライバシー権の問題となります。
不倫は確かに悪いことですが、誰が誰と不倫をしようが本人たち以外には基本的に関係のないことで、公開する正当性もなく、公開されれば本人にとって大きな不利益となるでしょう。
このような場合にはプライバシー侵害が認められる可能性が高いと考えられます。

しかし、それが政治家などの公人の場合はどうでしょうか。
不倫をするような人に国政や地方自治を任せて良いのか、そんな人には投票したくない、と考える有権者がいるのは当然のことでしょう。
政治の能力は大事だけれど、人間性も問われるのが政治家です。
この人はこういった人物だ、と世間に知らしめることが有益である場合にはプライバシー権は制限を受け、侵害にはならない可能性が高くなります。

ただし、世間に知らしめることに大した意味がないような情報は、一般人の場合と同じく公開すればプライバシー権の侵害になる可能性が高いです。
(例えば学生時代のラブレターを公開してしまうとか)

芸能人、スポーツ選手などの有名人のプライバシー

芸能人にはファンが存在します。
ファンはその芸能人の私生活についても知りたいと思うものでしょう。

だからといって無制限に私生活が暴かれてしまうようなことがあれば芸能人の平穏に生活する権利が脅かされます。
有名であることを理由にしてプライバシーを侵害して良い理由にはなりません。

しかし、有名人はやはり一般人と同じとはみなされません。
私生活上のことを無制限に公開はできないとしても、一般人よりは侵害となる基準は緩やかに判断されるようです。
有名であるがゆえに一般市民がプライベートなことにも関心を抱くことは仕方のないこと、自分でその職業を選んだ以上はプライバシーが公開されること関して最初からある程度の「承諾」があるとみなすことができること、などがその理由として挙げられます。
(平成12年02月29日 東京地方裁判所(平成10(ワ)5887))

しかし、やはり「やり過ぎ」はプライバシーの侵害になってしまいます。
週刊誌などでは芸能人のプライベートに関する記事がたくさん出ていますが、やり過ぎだとして時々裁判になり週刊誌側が敗訴することもあります。

肖像権とプライバシー権の関係

肖像権はプライバシー権の一部と説明される場合もありますが、プライバシー権は肖像権を内包する(肖像権はプライバシー権の中にすべて含まれる)と考えてしまうと説明できない部分が出てきてしまいます。

例えば、写真集を作成して発売するためにモデルを撮影する場合を考えます。
当然ながら写真を撮って写真集にすることに対する同意はモデルから得ています。

こうして撮影された写真であっても、本人の意に反する写真の公開について肖像権の侵害が認められたケースがあります。
(平成17年12月16日 東京地方裁判所(平成16年(ワ)19075))

これは肖像権の侵害とは認められましたが、モデルのプライバシー権は侵害されないはずです。
判決文でもプライバシーに関しては触れられていません。
そもそも外を歩くときは自分の顔(容姿)を公衆にさらしているのに、それを写真に撮って公開したらプライバシーの侵害にはなるというのは無理があります。

肖像権侵害は、常にプライバシー権も同時に侵害されるから違法な行為となるわけではない、つまり別の判断基準を持った別の権利であることがわかります。

しかし共通する部分もあります。

例えば「○○さんは不倫をしている」という情報を勝手に公開することはプライバシー侵害になると考えられます。
その公開の仕方は文書でも口頭(うわさ話)でも構わないわけですが、不倫現場を写真撮影して公表すると、プライバシー権と肖像権の両方を侵害すると考えられます。
顔自体はプライバシー権では守られないとしても、「人が何処かにいるところ、何かをしているところの写真」というのはプライバシー情報を含む写真になり得るからです。