「肖像」の「権利」ってどういうこと?
肖像権のない世界
詳しい解説に入る前に、このサイトで扱う「肖像権」とは一体どういうものなのかを大雑把に説明します。
例えばの話。
ある日突然、友達から「○○さん(あなたの事)、ネットに写真でてるよ」と知らされたとしましょう。
自分には何の事だかさっぱり身に覚えがありません。
教えてもらったサイトを覗いてみると、そこには電車で爆睡しているあなたの寝顔が公開されていました。
その寝顔があまりにも面白かったので、近くにいた人が勝手に撮影してネットにアップロードしたのです。
あなたは怒り、サイトの管理人に写真を削除するように抗議メールを送ります。
しかし、サイトの返事は「誰がどこで写真を撮ろうと表現の自由だ」と削除に応じません。
確かに、電車内で写真を撮ることを禁止する法律はありません。
あなたは泣き寝入りするしかないのでした…。
…ということが現実に起こってしまうと困りますね。
これはただの例ですが、これに近い事件は実際に起こっています。
特に今は携帯電話やスマホに当然のごとくカメラ機能が搭載されていて、いつ誰に撮影されるかわからない時代です。
もし勝手に写真撮影され嫌な思いをした時に、相手に抗議して写真を取り下げさせたり、場合によっては損害賠償を請求できる権利こそが肖像権なのです。
「肖像」とは人の外見のこと
「肖像」とは人の見た目、容姿の事をいいます。
その権利を持つのは当然その肖像の本人で、他人の外見を勝手に利用することはできません。
これが肖像権の基本的な考え方です。
写真だけでなく、映像や絵などでも人の見た目を写したり描いたりできますから、これらも勝手に利用できません。
さらに、人を写真撮影することも自体も勝手にはできません。
つまり肖像権は、
- 勝手に写真撮影されない
- 勝手に人が写った写真や映像などを利用されない
といった権利です。
みんながこの決まりをキチンと守ることで、嫌な思いをする人がいなくなりました。
メデタシメデタシ…。
…本当にそうでしょうか?
人を勝手に写したら全部肖像権侵害?
他人を勝手に写してはいけないといっても、街中では相当な注意をしないと背景部分に他人が入り込んでしまいます。
観光地などの人込みでは、他人が写らないようにするのはほぼ不可能です。
でも肖像権は守らないといけないし…。
他人が写らないように配慮した結果、旅の思い出の写真は自分の顔面のドアップばかり。
これではちょっと困ってしまいますよね。
上で示したような権利が肖像権だとすると、これを厳密に守ろうとするとかえって不都合が起こります。
普通の感覚からすれば、ちょっと写真に写り込んだくらいは許してもいいんじゃないの?と思うでしょう。
実はその通りで、「容姿を勝手に利用されない権利」といっても、写真に少しでも他人が写り込んだら肖像権侵害とは判断されません。
あくまで、人の見た目を無断使用すると肖像権を侵害する可能性がある、というだけです。
また、上にも少し登場しましたが、写真を撮るというのは表現の自由といって、原則的に自由に行えることになっています。
表現の自由には報道の自由、知る権利なども含まれ、これらは最大限守らなければならない国民の大切な権利です。
例えば、事件の報道では犯人や重要人物の写真が使用されます。
この人たちにも肖像権はもちろんありますが、だからといって写真が使えないとなると国民の権利が脅かされることになります。
表現の自由と肖像権とを比較すると、表現の自由のほうが優先されると考えられています。
しかし優先するといっても、肖像権の侵害による不利益のほうが大きい場合には表現の自由は制限され、肖像権の侵害が成立します。
個人の権利と権利とが衝突する場合は判断が難しく、最終的には裁判所の判断を仰ぐことになります。
どこまでOKでどこからNG?
大体のイメージを掴むため、どういった行為が許され、また許されないかをいくつか例示してみます。
※あくまで例示であり、状況次第では判断が逆転する場合もあるので参考程度に留めておいてください。
念のため書きますが、勝手に他人を写したり勝手に他人が写った写真を利用したりするのがダメなのであって、その本人に撮影および公開することの同意を得ていれば問題ありません。
侵害にならなそうな行為
- 観光地での記念撮影時の、背景への人の写り込み
- 祭りやイベントなどでの出演者の撮影(撮影が禁止されていない場合)
- 風景としての人込みの撮影
- 上記写真をネットで公開すること
侵害になるかもしれない行為
- 街中で特定の人物を狙いアップで撮影すること
- 風景として人込みを写真撮影した後、画像編集で特定の人物をアップにしてネットなどに掲載すること
- 同意を得て写真撮影したが、当初得た同意の範囲外の方法で使用すること