パブリシティ権について

有名人に認められる権利

人の容姿には肖像権があり、これはすべての人に認められる権利です。
実は容姿に関する権利にはもう一つ、特定の人だけに認められる権利も存在します。

例えば芸能人などの有名な人は、有名であるからこそ氏名や容姿に一般人とは違った価値が発生しています。
人気芸能人を主役にして映画を撮ればヒットが期待でき、CMに起用すれば商品の売り上げアップが期待できます。
これらはその芸能人が持つ経済的な価値、顧客誘引力を利用しているのです。
このような、人の氏名や容姿が持つ経済的価値を利用する権利をパブリシティ権と言います。

一般人の名前や容姿に普通は経済的な価値はありませんから、パブリシティ権が認められるのは必然的に有名人、著名人になります。
肖像権とは異なり、人の見た目だけでなく名前も権利の対象になります。

具体的には、

  1. 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合
  2. 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合
  3. 肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客誘引力の利用を目的とするといえる場合

のいずれかの場合にパブリシティ権を行使したことなります。
(平成24年2月2日 最高裁判決)

無断で使用すれば侵害になりますが、本人や所属事務所から許可を得て使用することは問題ありません。

例えば、芸能人の写真集を販売する場合は上記Aに該当すると考えられます。

芸能人のフィギュアを作って販売する場合はBに該当すると考えられます。

CMに起用したり、宣伝素材に芸能人の写真を使用するとCに該当するでしょう。

ちなみに上記判例は雑誌内のページに芸能人の写真や氏名を無断使用したことでパブリシティ権侵害を争ったものですが、裁判所は侵害を認めませんでした。
雑誌内の数ページ(特集コーナー)で使用するだけでは上記の3つの要件のいずれにも該当しない、と判断されたのです。

つまり、有名人の氏名や肖像を無断使用しても、それだけでパブリシティ権侵害とは判断されません。
それで雑誌の売り上げが上がったとしても、です。
新聞や雑誌等のメディアで芸能人の氏名や肖像を利用することは一般的に行われることで、それを権利の侵害としてしまうと経済活動に対する影響が大きく、顧客誘引力があることのみを理由としてパブリシティ侵害とすることは適当とは言えないからと考えられます。
有名人の氏名、肖像を「専ら(もっぱら)」、つまり顧客誘引力の使用を主目的とした場合に侵害になります。

パブリシティ権は、有名人の氏名や容姿が持つ経済的価値、顧客誘引力を利用することが侵害となり得る行為なので、非営利目的など、お金が一切からまない使用であればパブリシティ権の侵害にはなりません。

単純に無断使用しただけで侵害になるとは限らないという点は肖像権と似ていますが、侵害とならない理由は異なるので注意しましょう。

有名人の肖像権

有名人にはパブリシティ権という一般人にはない権利があります。
そして、有名人も人間なので肖像権も同時に存在します。

そのため、有名人は一般人よりも手厚い保護があるように思えます。
しかし実際には有名人のほうが得、というわけではなく、むしろ一般人よりも保護が薄いとも言えます。

有名人の名前や容姿はテレビや雑誌等のメディアで広く利用されることが前提となっています。
特に芸能人は顔や名前を売り込むのが商売といってもいいでしょう。
そのため一般人の場合ならば肖像権侵害となりそうな場合でも、有名人の場合には侵害にはならないと判断されるケースがあります。

その分はパブリシティ権でカバーされているかというと必ずしもそうではありません。
非商用の場合はまず侵害とはなりませんし、商用であっても侵害と判断されるには上述したようなやや厳しい条件があります。 (肖像権の場合は商用、非商用は関係がない)

また、プライバシー権も同様に一般人よりは制限される傾向があります。
(肖像権とプライバシー権参照)

これらのことから、限度はあるとはいえ、有名人は一般人に比べれば写真に撮られたり私生活を公表されたりしても文句が言えない範囲がやや広いと言えます。
有名であるがゆえに一般人よりも負担が大きい事から、俗に有名税などと呼ばれます。

人以外のパブリシティ権

パブリシティ権も肖像権と同様に法律で定義されている権利ではありませんが、判例上認められている権利です。
その根拠は人格権にあると考えられています。

では、人以外の「物」や「動物」などにもパブリシティ権は認められるのでしょうか。

この疑問に対して、最高裁はパブリシティ権を認めないとする判決を下しました。
(最高裁平成13(受)866、867 平成16年2月13日2小判決)

その理由としては、やはりパブリシティ権は人格権に基づく権利だからです。
人ではない以上、人格権は認められません。
そして、物や動物には所有権が認められますが、その外見や名前を他人が使用することまで所有者が制限する権利はない、と判断されたのです。

上記の判決では、有名な競走馬の名前を、あるゲーム内で無断使用したことに対してパブリシティ権侵害を訴えたものですが、裁判所は物(動物は法律上「物」と扱われる)にパブリシティ権は認められないと判断しました。