「肖像権『法』」は存在しない!

肖像権は法律で守られていない?

肖像というからには、権利として守られていることになります。
しかし、実は「肖像権法」という法律や、肖像権を規定した法律はありません。
肖像権を定めた法律は現在の日本には存在しないのです。
肖像権という名前はよく聞くが、どういう権利なのかはっきりしない、人によって認識に差がある、などはこのせいだと思われます。

肖像権に関する法律がない、といっても名前だけが独り歩きしていて法的な保護がない、というわけではありません。
ちゃんと権利として存在し、侵害すると裁判沙汰になることもあります。

似たような例を出すと、プライバシー権があります。
「プライバシー」はよく聞く言葉だと思いますが、実はプライバシー権も肖像権と同様に法律で規定されていません。
しかし現代ではプライバシーは守られて当然だとみんなが考えています。
法律に詳しくなくても、他人のプライバシーを侵害すると訴えられることがあるというイメージは持っているのではないでしょうか。

肖像権もこれと同じものです。
法律で明文化されていなくても守らなければならない権利で、もし侵害すればそれなりの「罰」を受ける場合があります。

ただし「罰」といっても警察に逮捕されることはありません。
肖像権に関する法律が存在しないということは、他人の肖像を勝手に利用することを禁止する法律がないということです。
法律で禁止されていないことをして犯罪となることは、現代の日本ではあり得ないのです。
(難しい言葉で「罪刑法定主義」と言います)

プライバシー権侵害も肖像権侵害も法律で犯罪とされておらず、刑事罰ももちろん規定されていません。
刑事罰がない行為を警察が逮捕することはありませんし、刑務所に入ったりすることは当然ありません。

あえて「罰」と表現しましたが、正確には「民事上の責任」です。
民事上の責任とは簡単に言えば「金銭による賠償」で、相手にお金を払って謝ることになります。

肖像権侵害は犯罪ではないという点は勘違いしやすいので覚えておきましょう。
犯罪ではないけれど、人に迷惑をかけるのは悪いことなので賠償金を払うことになる場合もある、ということです。

肖像権の侵害には刑事罰はありませんが、その人の名誉を傷つけるような使用方法をすれば名誉毀損罪に問われますし、他人が撮影した写真を勝手に利用すれば著作権侵害(刑事罰アリ)に問われます。
無論、刑事罰さえ受けなければ何をしても良いわけでもないので注意しましょう。

刑事事件と民事事件

肖像権には直接関係しませんが、刑事事件民事事件について簡単に説明しておきます。

刑事事件は簡単に言えば犯罪に関係する事件です。
誰々に殴られた(暴行罪)、お金を盗まれた(窃盗罪)、などですね。
このような事件は刑事裁判によって犯人に相応の罰が与えられます。

民事事件は、犯罪以外の事件(トラブル)全般です。
誰々にお金を貸したけど返してくれない、注文通りの商品が届かない、などです。
肖像権侵害もこちらに含まれます。

ただし、民事は犯罪に関わらないものと言っても、犯罪によって受けた損害の賠償は民事で行います。
刑事裁判で犯人に刑事罰が与えられますが、それだけでは被害者には一円も補償されません。
刑事裁判とは別に、被害者自身が民事裁判を起こして犯人に請求する必要があります。

犯罪ではないということは…

肖像権侵害は犯罪ではないので、もしうっかり加害者側になってしまっても警察には逮捕されません。
これはこれで良い事のように思えますが、逆に言えば肖像権侵害の被害者側になっても警察は助けてくれないということです。

誰かに無断撮影された!と思って警察に通報しても警察は取り合ってくれません。
警察には「民事不介入の原則」というものがあるからです。
警察が助けてくれるのは基本的に犯罪が関わる場合だけです。

民事事件は基本的に自分で解決しなければなりません。
自分での解決が難しいなら、弁護士に依頼するという方法もあります。

繰り返しになるかもしれませんが、脅迫行為や名誉毀損など、肖像権だけの問題ではなく他の犯罪が関係してくる場合には警察が動いてくれることはあります。

法律にないのになぜ権利が存在するの?

所有権は民法に規定があり、著作権は著作権法に規定があります。
権利というのは法律で明文化されているのが普通ですが、肖像権やプライバシー権などは法律がないのに権利が存在しています。

これは少しややこしくなるので、次ページで解説します。
少し難しい話になるのですが、どういう権利なのかを明確にするためには必要なので頑張って読んでください。