法律がないのに法的根拠はあるの?

実は憲法で保障されている!?

肖像権を規定した法律は存在しないことはすでに説明しました。
法律がないのに法的に守られる、というのはちょっとわかりにくいかもしれません。

法律には規定がなくても、法律の親玉である憲法には、その根拠となる条文が存在します。

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


日本国憲法 第13条

幸福追求に対する国民の権利」(幸福追求権)こそが肖像権の根拠となる言葉です。
プライバシー権もこの幸福追求権が根拠になっています。
これらの権利は人格権といい、基本的人権のひとつです。

「憲法」「基本的人権」などの言葉を聞くと「難しい」「よくわからない」と感じる人もいるかもしれません。
ここではそう難しく考えず、「人権はお互いに尊重し守っていかなければならない」と理解しておけば十分です。

肖像権が侵害されて実際に裁判を起こす場合は憲法違反を訴えるのではなく、民法709条を根拠として訴えます。

(不法行為による損害賠償)
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


民法 第709条

簡単に言えば「わざと、またはうっかりで人に損害を与えたらそれを賠償する責任がある」という決まり(法律)です。
肖像権は国民に認められた権利、利益だから、それを侵害したら賠償しなさいよ、ということになります。

なぜ肖像権は幸福追求権に含まれているの?

国民ひとりひとりに幸福追求権という権利があるのはいいとして、プライバシー権や肖像権などの権利がそれに含まれるのは何故でしょうか。
権利を認めるなら、例えば著作権法のように法律で規定してしまうのが明確でわかりやすいはずです。
「幸せを追及する権利」といっても具体的にどういう権利なのかを示しておらず、解釈次第ではありとあらゆる権利が認められそうです。

こういった権利があることを認めたのは司法、つまり裁判所です。
ある人がプライバシーの侵害や肖像権の侵害は違法だ、ということを裁判所に訴えて、裁判所がそれを認めたのが権利の始まりです。
人のプライバシーや外見について、他人が自由に無断使用できるとすると、その人が幸せに暮らす権利が脅かされる危険性がある。
だからこれらを保護する必要がある、という考え方から権利として確立してきたのです。
つまり裁判所が認めれば、法改正をすることなく新しい権利が生まれる可能性があるということですね。

裁判所がどういう判断を示したのかは、長くなるので次ページで説明します。

動物や車などに肖像権はある?

人には肖像権が認められていますが、人以外、例えば車や動物などに肖像権はあるのでしょうか。

すでに説明した通り、肖像権は憲法13条の人格権が根拠です。
人格権が認められるのは「人」だけです。

つまり必然的に、動物、建物、車(家電製品)、漫画のキャラクターなどには肖像権は認められないことになります。
動物を勝手に撮影しても肖像権侵害になることはないのです。
同じように、動物にプライバシー権は認められません。
(そもそも動物にプライバシーという概念があるのか?という疑問はありますが)

ただし、漫画のキャラクターの「絵」は著作権法で保護されますし、車の外観は意匠権で保護されている場合があります。
保護される法律が違うので侵害となる行為は異なりますが、人以外であってもその見た目に法的な保護が存在する場合があるので注意してください。