肖像権を侵害しないために

他人の肖像権を守ることは大事だけれど、だからといって必要以上に写真を撮ったり動画を撮ったりすることをためらうことはありません。
肖像権を侵害しないために気を付けるべきことをまとめてみました。

ここではあくまで肖像権の侵害になるかならないか、という話をメインにしています。
肖像権以外の法令や、常識、マナーなどもきちんと守りましょう。
法律問題の前に人を不快にする行為は慎むべきです。

特定の個人を狙って撮影しない

街中等で撮影すれば通行人が写り込んでしまうことがよくあります。
ただの写り込みであれば問題となることはまずありません。
しかし、特定の個人を狙って撮影することは避けましょう。

個人を狙って撮ったからといって、すぐに肖像権侵害と判断はされません。
しかし撮られている側からすれば不快に感じる可能性は十分に考えられますし、思わぬトラブルに発展するかもしれません。
こういうのは法律以前のマナーの問題です。

風景として人を撮影した場合でも、特定の個人が大きく写るように撮影された写真について、肖像権侵害を認めた例も存在します。
(青森地裁 平成7年3月28日判決)

撮影だけでも肖像権侵害となり得る

よくある誤解として「撮影した写真を公開しなければ肖像権侵害にはならない」というものがあります。
しかし肖像権というのは「みだりに撮影されない権利」でもあります。
つまり撮影行為そのものが肖像権侵害と判断される可能性があります。

写真の公開についてはもちろんですが、撮影行為自体も気を付ける必要があります。

画像の公開時にはモザイク等の処理をする

写真や映像をブログ等で公開することは今では一般的に行われています。
このとき、他人が写り込んでいるのなら、個人が特定できないように顔の部分にモザイクやぼかし等の処理をした上で公開しましょう。

これも個人が特定できればすぐに肖像権の侵害だと判断されるとは限りません。
しかしトラブルに発展しないためのマナーのひとつです。

他から人物画像を転載しない

例えば芸能人の画像などを雑誌や公式サイトから転載しているブログ等があります。
これらも肖像権の侵害となり得る行為です。

それ以前に、画像の転載は著作権法に違反する可能性のある行為なので、正当な理由がない限りはやめておきましょう。
(例えば著作権法上の引用に該当する場合は正当な理由と言えます)

同意が得られた使用方法以外では使用しない

肖像権は人を無断で撮影したり写真を使用したりする際に問題になります。
当然ながら、あらかじめ本人に同意を得ていれば問題とはなりません。

しかし、撮影の同意を得ていても、その写真の使用方法には注意を払わなければなりません。
例えば自分のブログに載せるために撮影することの同意を得られたのならば、自分のブログに載せる以外の方法では使用しないことです。
それ以外の方法で使用すると肖像権侵害となってしまうおそれがあります。

イベント等の出演者は大丈夫(なことが多い)

観光地やお祭り等のイベントを撮影することはごく普通のことです。
そのイベントに出演者を撮影することや、その写真を公開することは問題ないと考えられます。

これは、誰でも見られるイベントでは撮影されることが当たり前で、出演者たちは最初から撮影されたりその写真が公開されるたりすることを想定した上で出演していると考えられます。
そのような人物を撮影すること、およびその写真を公開することは、肖像権侵害の判断基準である「社会生活上受忍の限度を超える」ものと判断するのは難しいと考えらえます。

だだし、撮影禁止と明示されているような場合には撮影してはいけません。
有料で入場するようなイベントでは撮影禁止であることが多いので注意が必要です。

また、その写真の使用方法が不適切であれば侵害となる可能性があります。
例えば勝手に写真集にして販売する場合などは侵害と判断されてもおかしくないでしょう。
特に出演者が有名人の場合はパブリシティ権の問題にもなります。

イベントといっても、撮影や公開をされることが想定されない場合も考えられます。
例えば学校の運動会や文化祭などは、関係者によって撮影されることくらいは想定されるとしても、それをネット上に公開することまでは許されないと考えるべきでしょう。

別の話として、肖像権は問題ないとしても、イベント自体が著作物であるような場合にはその映像や画像を公開することは著作権法的に問題となる場合があります。
例えばディズニーのパレードは著作物であり、この映像を販売することは著作権侵害であると判断されたことがあります。

公務員に肖像権はない?

ネットではよく「公務員には肖像権はないから撮影しても問題ない」と言われることがあります。
これは果たして真実でしょうか。

肖像権は法律では規定されていない権利で、判例によって認められている権利です。
どの判決文を見ても、「何人も」「人は」と書かれているだけで、特定の立場の人だけに肖像権を認める、認めないとしたものはありません。
つまり、日本では今までに「公務員に肖像権は認められない」とした判決はありません。

公務員に肖像権がないと言われる根拠としては、肖像権がプライバシー権の一部であるとされる点でしょう。
公務中の公務員は「全体の奉仕者」であり、その活動はプライベートなものではありません。
つまりその活動はプライバシー権で守られるべきものではないと考えられます。

しかし、このサイトでもすでに説明しましたが、肖像権はプライバシー権に内包される権利ではありません。
(肖像権とプライバシー権の関係を参照)
プライバシー権は主張できないとしても、直ちに肖像権もないと考えることはできません。

ただし、公務中の公務員はその活動内容から、一般人よりも肖像権侵害となる範囲が限られると考えられます。
肖像権を認めた判決文では「被撮影者の社会的地位」「被撮影者の活動内容活動内容」は侵害の判断基準になるとされています。
(判決文を見てみようを参照)

これらのことから、公務員であっても肖像権が認められるものの、一般人よりは制限される傾向にある、と解釈するのが正しいでしょう。
例えば、好みの警察官を突け狙って執拗に撮影を続けるような場合には侵害を認めても良いのではないかと思います。

また、これらはあくまでも「公務中」の公務員の話であって、公務外では公務員と言えども一般人です。
公務外であればプライバシー権や肖像権は一般人と同程度に認められるものと思われます。